俺様社長に甘く奪われました
「秘伝の漢方薬を練り込んだものらしく、手荒れに効果があるそうだ。匂いはちょっと鼻につくかもしれないが、美を追求する中国人女性の間で人気があるらしい」
そこで莉々子はふと思った。もしかしたらラウンジで望月のおっかけから逃れるために手を繋いだときに、自分の手にかさつきでも感じたのだろうか。
そんな些細なことに気づく望月の繊細さに驚いた反面、彼の周りにいる女性たちはきっとすべすべとした綺麗な手の持ち主だろうとわかるから、恥ずかしくなる。
「気に入らないみたいだな」
「あ、いえ、違うんです。ハンドクリームは重宝するので嬉しいです。ありがとうございました」
そう言って頭を下げると同時に、軽く圧迫される格好になった莉々子の胃からキュルルルーという音が鳴る。咄嗟にお腹を押さえたものの、望月の耳にはしっかりと届いたようでクククと笑われてしまった。
「なにか食べてくればよかったな」
「よかったらなにか作りますか……?」
莉々子は言ったそばから後悔したが、もう手遅れだ。
望月は「それじゃ頼む」と立ち上がり、莉々子をキッチンへ案内する。