ネコと教師
そうだ。俺は白石淳子に惚れている。
小学生の頃からだから、今年でもう五年も未練ったらしく片想いを続けていることになる。
だからこそ、こういった白石の噂を聞くのは、とても不快だった。
しかし、俺がこんな想いを秘めていることは、いままで誰にも言っていなかった。
理由は、昔ならともかく、奇人と化したいまの白石のことを好きだと言えば、誰だろうがからかい馬鹿にするに決まっていたからということと、だいいちに、そこまで気を許せる仲間が俺にはいなかったからだった。
まったく、それで片想いってんだから笑える。
俺って奴は根性なしにさらにカビが生えたような、ほんとに情けない大馬鹿だ。
だから俺は、腹のうちの不快さとは正反対の、こんな返事を返しちまった。
「また白石かよ多田。好きだなあ、おまえ。ひょっとして気があんじゃねえの?だからそうやって噂にくどいんだろ」
それを聞いた多田は、本当心底おかしそうにけっけと笑った。
「ねーよ。誰があんなヤリマン。布袋、オレが噂にくどいのは平等なわけ。知りたくもない噂でも、耳に入りゃカンケーねえの。もう口が止まんねえの」
俺は笑顔をやや曇らせ、それでも愛想笑いを絶やさぬようにしながら、
「うっわ。おまえ最低だなそれ」
と、やっとのことで言った。