ネコと教師
小学校からの同級生は俺を「フブクロ」と呼んだ。
由来はまあ単純なもんで、「布袋《ほてい》」っていう俺の苗字を、誰かが読み間違ったのがきっかけだった。
誰が初めにそう呼んだのかは覚えていない……ってのは大嘘で、これまた命名者は白石淳子だった。
「フブクロくん」
そう。こんなふうに素で間違って、みんなに笑われて赤面した白石が、なんだかとても可愛らしく見えて、以来俺は、その想いを秘め続けているのだ。
と同時に、教室の中、大勢の前での呼び間違えだったということもあり、馬鹿な小学生だった周りの連中にもすぐに伝染して、それから俺はフブクロになった。
そのことを、白石と恥を分け合ったような気がして、少し嬉しく感じていたのを、いまでも覚えていた。
――って、ん?
ちょっと待ってくれ。
誰だ?いま俺を呼んだのは。
(……いや、これは、この声は――)
木村が席に戻るのを見ながら、考え事をしていた俺は、背後に忍び寄る危機に気付いていなかった。
振り返るとすでに多田がいず、代わりに誰だか見覚え、いや、けっこう俺がよく見ている誰かが、後ろ手組んで立っていた。
俺は一瞬それが信じられず、すぐに自分のいる、みっつ前の席に目をやった。