ネコと教師
「そりゃ、岩崎先生は確かに格好良くもなかったし、印象深い先生ってわけでもなかった。でもおれは、それでいいと思った。それがとても気持ちよかった。教師ってのはそれでいいんだと、おれはそう思ったんだ。気取ってなくても、知識をひけらかすのでなく、ただの授業をわかりやすく伝えるだけの、人でいいんだ、ってな。まあ、持論みたいなもんだな。だからおれは、偉い人にはなる気がないんだ。ただの平《ひら》の人でいたい。な、そんなもんに、大それた期待なんかしちゃ、変だろ?分不相応じゃないか。だから、教師ごときに期待なんかすんな、……っていうはなしだ。……まあ、これが実際は難しいんだけどな」
「……そんなの、ずるい」
「ん?」
「だって、教師は生徒を評価するじゃん。だったら平の人なんかじゃない。偉い人だよ。上からもの言うし、高いところで喋るでしょ?おかしくない?平じゃないじゃん、全然」
そう言った白石は、やはりいつもと違っていた。
へらへらしたいつものこいつとは違う、なにか切迫感のようなものが感じられたのだ。
なんだろう。
………なんかいま、こいつを少しわかった気がした。