ネコと教師

「そりゃ、岩崎先生は確かに格好良くもなかったし、印象深い先生ってわけでもなかった。でもおれは、それでいいと思った。それがとても気持ちよかった。教師ってのはそれでいいんだと、おれはそう思ったんだ。気取ってなくても、知識をひけらかすのでなく、ただの授業をわかりやすく伝えるだけの、人でいいんだ、ってな。まあ、持論みたいなもんだな。だからおれは、偉い人にはなる気がないんだ。ただの平《ひら》の人でいたい。な、そんなもんに、大それた期待なんかしちゃ、変だろ?分不相応じゃないか。だから、教師ごときに期待なんかすんな、……っていうはなしだ。……まあ、これが実際は難しいんだけどな」

「……そんなの、ずるい」

「ん?」

「だって、教師は生徒を評価するじゃん。だったら平の人なんかじゃない。偉い人だよ。上からもの言うし、高いところで喋るでしょ?おかしくない?平じゃないじゃん、全然」

そう言った白石は、やはりいつもと違っていた。

へらへらしたいつものこいつとは違う、なにか切迫感のようなものが感じられたのだ。

なんだろう。

………なんかいま、こいつを少しわかった気がした。

< 60 / 75 >

この作品をシェア

pagetop