ネコと教師

こいつはませてるんじゃない。

人の何倍も幼く、そして純粋にすぎたのだ。

ああ。そうだな、白石。

教師ってのは、たまに余計なことをする。


「大変よくできました」。


おれの大っ嫌いな文句。

通知簿のどんな数字より、よほどあくどいこの文句が、この白石淳子って奴の頭をこんなふうに陽気で陰気に、おもしろおかしくしてしまったのだ。

「あのな、白石ひとりと比べたら、教師なんて偉くもなんともないんだよ。そんなふうに、教師の評価のために自分を決めるな。いいか。言っておくが、待ってたっておれは誰にも、よくできましたなんて、がんばりましょうなんて、そんなこと言わないからな」

それでどうやら、おれは図星をついた。

言い捨てたおれを見る白石は、まるで震えるのを堪えるように両足を閉じ、下唇を噛んで、顔を青くさせた。

そして、いままで聞いたことのない震える声で、

「じゃあ、あたし、どうしたらいいんですか……」

と言った。

窓の外に視線を流す。

キンモクセイの香りがふっと鼻をかすめた。おれはこのにおいが嫌いだった。

そしておれはそのままで言った。

「偉くない奴の言うことなんて、別に聞かなきゃいいんじゃないか?」

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