ネコと教師
5 迷子の子ネコ
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あたしはただ、自分がどんな人間なのか、ちゃんと知りたかった。
そしてそのためには、自分を評価できる偉い人に、しっかり自分を見てもらう必要があった。
それで、目立ってやろうって決めた。
いままでの、あんな外面じゃ、あたしをしっかり見てもらうのは無理だと思ったから。
中学校に入学して最初の登校日。
あたしはまず、一切話さずに過ごしてみることにした。
自己紹介をしろと言われてもなにも言わなかったし、話しかけられても、なにも返さなかった。
一週間くらいそれを続けたら、先生は「大人しい子ね」とあたしに言った。
それはいままで言われたことがなかったから、嬉しくって、あたしはその先生に懐くようになった。
でも、そうすると今度は、「本当はこんなによく喋れるんじゃない。そっちのほうが魅力的よ」と言われてしまった。
それじゃあ、前といっしょだった。
あたしはこの人の結論を聞いてしまって、がっかりした。
せっかく無理して努力して、喋らず過ごしてみたのにそれが無駄になった気がした。
だから、先生とは違う先生に、今度は子どもみたいになんにでもなぜと訊くような態度をとってみることにした。
そうすると、今度は「幼いな、白石は」と言われた。
やっと実った気がして、嬉しくて、やっぱりあたしはその先生に懐くようになった。
すると今度は、「白石の魅力は、その屈託のなさだよな」と言われてしまった。
あたしはその人の結論を聞いてしまって、やはりがっかりした。
もうとっくに知っていてわかっているようなことも意味なく訊き続けたのに、やはり同じような答えをもらってしまい、失望した。