ネコと教師

お風呂をあがって、必要なものをカバンに入れ、リビングで横になっていたその人に声をかけた。

「おかーさん。おこづかいもらってくよ」

返事はない。

死んでいるのかと思うほど、完膚無きまでに眠りこけている。

仕方がないので、毛布をかぶせてやって、伝言としてテーブルにメモを置いておく。

“二万円いただきました。淳子”

これでよしっと。

さて、それじゃ行きますか。

「あいたっ」

リビングから廊下に出ようとしたところで、なにかを踏んだ。

見ると、ビールの缶のタブだけが、よっつほど転がっていた。

靴下を脱いでみると、あたしの左足の親指はプツッと切れ目が入っていた。

これはあの人の趣味だ。

空き缶のタブ収集。

床に捨ててあるのは缶からうまくとれなかった分だから、はじっこがささくれ立っていて踏むと危ない。

あたしはそれらをゴミ箱に捨て、救急箱から絆創膏をとって、切れた親指に貼った。

そしてメモに追記しておく。

“PS.飲んだらちゃんとゴミ箱へ”

そして今度こそ、自宅を後にした。


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