ネコと教師
「はい?どうしました?」
おバカなことを考え、内心では溜息をつきながらブランコから降り、カバンをとって返事をした。
するとおじさんは、あたしの予想を裏切ってこんなことを尋ねてきた。
「きみ、アダルトビデオとか、出てみる気、ない?」
びっくりだった。
こういうのって本当にあるものなんだな、と思った。
テレビのワイドショーがネタでやっているだけなのだと思っていた。
あたしは相づちをうつように「はあ」と言って、事態を理解するのに必死だった。
おじさんは笑顔を取りつくろっていたが、その目は明らかに真剣で、なにか可哀相なくらい切迫しているふうな感じだった。
だからあたしは思わず言ってしまった。
「まあ、お話しだいでは」
って。
期待したものとは違ったけど、ここに来てくれた誰かに、なにかを託すようにして。
でも、なんでだろう。
どうしてだろう。
その時、ちっとも楽しい気分じゃなかったのは。
そうだ、本当はこんなんじゃなくって……。
誰かに、ここにいっしょにいるはずの、当然いるはずのない誰かに、あたしなんか怒ってくれたらって、本当はそう思ってたんだ。