ネコと教師
――はてさて。
そうして帰ろうと思ったら、懐かしくも思い出したくない光景がポツリ。
校門には白石淳子が立っていた。
「あ、先生ー!おそいなあ、もー。寒いじゃんよう」
「おまえな、この時期に早く帰れるか。おまえこそもっと緊張感持ったほうがいいんじゃないのか?受験まで、あとひと月もないんだぞ」
「あーあー。そんなの聞きたくない。ちゃんとやってるって、自分なりに」
「自分なり」、と強調して言う白石の態度に、おれは思わず吹き出した。
「……そうか。で、どうした。まさか、またおれんちに来るとか言い出す気じゃないよな」
「それでもいいけど。まあやめとくよ。今日はこれをね、渡しに来た」
そう言って白石は可愛らしく包装された、長方形のなにかを鞄から取り出した。
「もらってないでしょ?どうせ。だからあたしがお恵み。よかったね、先生」
その姿を見て、おれは苦笑した。
そして自分の鞄から、きらめくそいつを取り出す。
「残念だったな白石。おれはちゃあんと青田先生にいただいてんだ。だから、そいつぁ受け取れないな」
「えーっ!」
「おれは一途だ。だから浮気はできんのだ」
「いいじゃんそれでも。あげるってんだから、受け取れよう」
「おれ聞いたんだがな、布袋がおまえのチョコ欲しいーって、のたうち回ってたらしいぞ。あいにくおれは受け取れん。じゃあしょうがないからそれ、あいつにやったらどうだ?」
「なんでフブクロくん?」
「さあ?好きなんじゃないか。おまえのこと」
「嘘だ。嫌ってるよ。あたしなんか、みんな」
「なんだそれ」
「だってあたしって、変人じゃん。みんな、あたしなんてよく思ってないよ」
「決めつけるなあ」
「だってそうじゃん」
「決めつけるのは卑怯だって、前におれ、誰かから聞いたんだがなあ。えっと、あれは誰だったか……」
「う……」
「おまえら、仲良かったんだろ?いいじゃねえか。義理だっつって、渡しちまえば」
「だ、誰がそんなことっ」
「さあな。………なあ、白石。パンの味、本当にどこで食ってもおんなじか?」