ネコと教師
「……………」
答えよどむ白石の丸い額の前に、おれはすっと指を出し、パチンとはじいた。
「いった!なにすんのさ」
「痛かったか?そりゃ意外だ。おまえは痛くないって言うかと思ったのにな」
「痛いに決まってんじゃん。不意打ちとか、卑怯だし!」
「ほらみろ。こうしてちゃんと痛がって、血の通ってる人間なんだ。だったら、本当に思った通りにやってみても、いいんじゃないか?」
白石はにらむようにしばらくおれを見つめた。そして、
「……ちぇ。あとで欲しいっても、絶対あげないから」
と、手に持った箱を鞄にしまって、自転車にまたがり、
「あんたの言うことなんて聞こえませんよーっだ!」
なんて吠えながら、ぴゅーっとこいで行ってしまった。
それを見えなくなるまで目で追い、おれは明日布袋にどう声をかけようか考えながら、ふーっと長く白い息をひとつ吐いた。
おわり