たとえばきみとキスするとか。



「このイルカのネックレス、私にプレゼントでくれたでしょ?あの水族館で」


きっとあの瞬間は、この先なにがあっても色褪せることはない。

蓮がいたから、蓮がネックレスをくれたから、私は頑張れたことがたくさんあった。



「水族館……?いつの話?」

「え……?」

一瞬、フリーズしたように私の思考が止まる。


たしかに10歳の時だし、今から5年も前の話。でも蓮は私に特別な言葉をくれたから、覚えていると思っていたのに……。


「う、ううん。昔のことだし、忘れてても仕方ないよね!」

明るく返したけれど、きっと笑顔は引きつっている。


私が大切にしていたものは、なにより特別だった瞬間は、蓮の記憶には残っていないんだなって、ちょっとだけチクリとしただけ。

でも、それは強いることじゃないからしょうがない。

頭では分かっているけれど、ネックレスが急に重くなったみたいに、ズンッと気持ちが沈んでしまった。

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