たとえばきみとキスするとか。


「またサボるの?」

零は足を止めたけど、私を見ない。

零の部屋で言い争った日から、全然、まったく目すら合わない。私はジャージの裾をぎゅっとしながら、一方的に言葉を投げた。 


「ネックレスさ、蓮はちっとも覚えてなかったよ」

「………」

「零はガキだって、ネックレスのことをいつもバカにしてたけど、本当に私がガキすぎたのかもしれないね」


蓮への気持ちは、自分の中で一区切りついている。

でもやっぱり、あの日のことを覚えていなかったことがショックで。こんなことを零に打ち明けたって、どうにもならないのに。


「ごめん。意味はないんだ。ただ、零には言っておこうと思っただけ。じゃあね」

私は体育館に向かって歩きはじめた。きっと多分、零は振り向いていた。

だけど、私は振り返らない。


ただ、イルカのネックレスに閉じ込めていた初恋が、まるで消えてしまったかのように、少し寂しくなってるだけ。

本当に中途半端だね、私は。

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