たとえばきみとキスするとか。



「この前は花火大会の流れで、なんて言ったけど嘘。本当は私から零くんに告白したの」

「………」

「零くんが莉子のことを見てたことは知ってた。でも莉子は蓮くんのことが好きだったし、どうせ報われないなら莉子の代わりでいいから私と付き合ってほしいって言った」


柊花がとても切ない表情をしていた。……こんな顔を見るのははじめてだ。


「私ってズルいでしょう?」と眉を下げる柊花に私は全力で首を横に振る。

食べかけのアイスは次第に溶けていき、地面に落ちた甘い匂いに誘われて、どこからかアリが集まってきた。


「零くんが私のことを好きじゃないことはわかってた。でもどうしても振り向かせたくて、付き合ってた時にはけっこう積極的に頑張ったの。でも、零くんの心は動かなかった」

「………」

「私、ずっと莉子に嫉妬してた。蓮くんもいて、零くんもいて、なんで私は莉子じゃないんだろうって。幼なじみってズルいなって思ってた」

「……柊花」

「本当はね、今でも零くんに想いは残ってる。連絡する勇気もないのに学校にいるかどうか確かめに行っちゃうぐらい」


うん。柊花の気持ちは私も気づいてる。

もっと早く、もっと中学生の時に知っていたら、私は応援できた。『なんで零なの?』って言いながら、ふたりをくっつける為のおせっかいを焼いていたかもしれない。


「でも零くんは莉子のことしか見えてないから」

……ドクン、と胸が締まる。

< 144 / 162 >

この作品をシェア

pagetop