たとえばきみとキスするとか。


「俺、いつか莉子は零を選ぶだろうなって、本当はずっと思ってた」

「え……」

「俺といる時より莉子は零といる時のほうが楽しそうにしてた。肩の力が抜けてるっていうか、飾らない姿で零とは話していたから」


たしかに私は蓮の前だといつも緊張してた。

背伸びをして大人っぽく見せようとしたり、可愛く見せることばかりを気にしていた気がする。

私は、零の前だと、自分らしくいられた。

怒ったり、泣いたり、可愛くない姿でも零の前では見せることができた。


「本当は、俺を選んでほしかったけど仕方ないね」


キレイな理想ばかりを描いて、初恋をこじらせていた私。

はじめての恋は、キラキラしてるものだけではなかった。

切なさも苦さもちゃんとあって、甘いだけじゃない。


「零のところに行くんでしょ?早く行きなよ」

蓮がそっと私の背中を押す。


「頑張れ、莉子」

最後の最後まで、優しい人。
 
私、蓮に片想いをしてよかった。この人を好きでいた時間がこれからの私の勇気になる。


「ありがとう。蓮」

私は涙を拭いて、笑顔で家を出た。

 
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