たとえばきみとキスするとか。





それから私はバスに乗った。行き先は最初から決まっている。5年前の今日、私は零とこのバスに乗り、水族館を目指した。

あの時のことは、細かいことでもはっきりと覚えている。このバスの車内で零が飴をくれて、ふたりで同じマスカット味をなめたのだ。

『美味しいね』なんて言いながら私は『アシカショー見れるかな?』なんて、座りながら足をバタバタとさせていた。


あれから、5年。

私は制服を着て、ひとりでバスに乗れるようになった。だけど、水族館へと向かうソワソワとした気持ちはあの頃のまま。


零にはあえて連絡していない。

零は終業式が終わったあと、学期終わりの余韻にも浸らずに、すぐに帰った。

私もすぐに追いかけるように校舎を出たけれど、零に追いつくことはできず、家にも帰ってなかった。


自惚れてるわけでもないし、零が水族館にいるかどうかも分からない。だけど今日は思い出の日だから。

もしかしたらって、願わずにはいられない。

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