たとえばきみとキスするとか。
私はどんどん歩き進めて、ピタリと足を止めた。
それはクラゲの水槽の前。透明のクラゲたちが蛍光ライトで映し出されて、グラデーションのように色をかける。
ゴクリと、息を飲んだ。
でもそれは幻想的なクラゲに感動したからじゃない。
水槽の前でたたずむ大きな背中。ぼんやりとクラゲが浮遊する様子を見ているその後ろ姿に胸が熱くなる。
「零」
私は静かに名前を呼んだ。
くるりと零がこっちを見て、その顔は驚いた表情をしていた。
「……な、なんで……」
私は一歩、一歩、足を前に出して零との距離を縮める。思えばこうして私から零に歩み寄ることなんてなかったかもしれない。
零の強引さも口の悪さも大嫌いだったのに、今はケンカをできないことが寂しい。
「零に話したいことがあって会いにきた」
私は自分でもビックリするぐらい背筋を伸ばしていた。ちゃんと堂々と零に伝えたい。
私はもう零から逃げたくないから。