たとえばきみとキスするとか。
せっかく災難を無事に乗り越えたっていうのに、まさか最後にこんな爆弾が用意されていたなんて……。
私はお母さんと同様にボストンバッグに荷物を詰めていく。
家は完全に出入り不可になることはないらしいから、今日のぶんと明日の学校の用意と、歯ブラシや洗顔といったアメニティグッズ。
支度をしながら、だんだんと現実味が増してきて憂鬱になっていると……。
「ひゃああっ!」
突然、ブーブーと床に置いてあったスマホが振動して、恥ずかしいぐらい私は動揺してしまった。
画面を確認すると、そこには【着信 蓮】の文字。
れ、蓮……?
ゴホンッと、無意味な咳払いをして喉の調子を確かめたあとに、私はボタンをスクロールさせて電話に出た。
「も、もしもし」
『あ、莉子?母さんから事情は聞いたけど、今日からうちに来るんだって』
「う、うん。なんかそういうことになってるみたい……」
『荷物とかあるでしょ?今そっちに向かってるから』
「え?向かってるって……?」
『ってか、もうすぐ莉子の家に着く』
そのあとバタバタと階段をかけおりて玄関のドアを開けると、まだ電話が繋がったまま右耳にスマホを当てている蓮が門の前に立っていた。
同じタイミングで電話を切り、蓮は私を見てニコリと優しい顔で微笑む。