たとえばきみとキスするとか。
蓮の家まで私の自宅から徒歩で約500メートル。近所ではあるけど、ひとつ向こうの道沿いだから、用がない限りは蓮の家に行くこともなかった。
「どうぞ」
家に着いて、蓮は門と玄関を開けてくれた。
家の中の造りはうちとほとんど一緒だけど、玄関には雪子おばさんの趣味であるフェルトの可愛い小物が飾られていて、蛍光灯は昼白色なうちとは違い、暖かみのある電球色。
「あら、莉子ちゃんいらっしゃい!」
玄関のドアの音に気づいた雪子おばさんがすぐに出迎えてくれた。
「こんにちは。迷惑だと思うんですが、少しの間お世話に……」
「迷惑なわけがないでしょう!そんなかしこまらなくていいから早く上がって」
雪子おばさんの笑顔は蓮とそっくり。だから私は雪子おばさんのことも大好きだし、すぐに緊張していた糸がほどけていった。
「今日は莉子ちゃんの好きなお好み焼きよ」
リビングのテーブルにはすでにホットプレートと、お好み焼きの準備がされていた。
「私の好きなもの覚えてたんですか?」
「当たり前でしょう。好きなものも嫌いなものも全部おばさんは知ってるわよ」
蓮と顔を見合わせて笑ったあと、制服のままじゃ汚れるからと私は部屋着に着替えることにした。