たとえばきみとキスするとか。


私が寝泊まりする部屋は2階の突き当たり。普段は荷物置き場になっている場所を雪子おばさんが綺麗に掃除をして、私がくつろげる部屋を準備してくれていた。

とりあえずボストンバッグを床へと置いて、中から洋服を何着か取り出す。

いつも着ている部屋着はゆったりと着られるワンピースタイプで、胸にはモコモコのウサギがついていて、かなりお気に入り。

だけど、ちょっと子どもっぽいかもしれない。


一応、大人っぽく黒系の部屋着は持ってきてあるし、いっそのことちゃんとした私服を着たほうがだらしなく見えないかも……と、ぶつぶつ独り言を呟いていると、なにやら背後から視線を感じた。

おそるおそる振り向くと、そこには零の姿。


「ぎゃあ、な、なんでいるの?」

「あ?俺の家だし、ドア開けっ放しにしてたのはお前だろ」


そうだ、ここは零の家でもあった。

もう関わらないと誓ったのに、零ともひとつ屋根の下で生活しなきゃいけないなんて、神様はちょっと意地悪だ。


「は、早くあっちに行ってよ。着替えるんだから」

保健室のことを許してない私はムスッと口を尖らせて、結局ワンピースタイプの部屋着を手にとった。


「ブタがブタの服着るんだ」

「は?ブタじゃないし、ウサギだし!」

ん?ワンピースのウサギよりも、私のことをブタって言ったよね?

またムカムカとしてきたけど、あまり大声を出すとリビングに響いてしまうし、ここは我慢、我慢っと。

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