たとえばきみとキスするとか。


結局、雪子おばさんが作ってくれた朝ごはんは食べる時間がなくて、何度も謝りながら私は家を出た。


「そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ」

学校へと向かう通学路。蓮は普段どおり完璧なのに、私は頑固な前髪に手こずり、最終的にはピン留めをしてなんとか落ち着いた。


「……ごめんね。蓮にも起こしてもらっちゃって」

明日からはちゃんとする。

まだ蓮の家にいさせてもらうことに戸惑っているけど、ダメな私を見てガッカリされたくない。


「うーん。でも莉子の寝顔も久しぶりに見れたし?」

「わ、私、変な顔してなかった?」

「なんか幸せそうな顔してた。いい夢でも見てたの?」


見てました。蓮と水族館デートしている夢を。

まるで恋人同士みたいに距離が近くて、水槽を泳ぐ魚たちより私がふわふわとしていた。

ソフトクリームの半分ことか、そんな贅沢なことは望まないから、また蓮と水族館に行きたい。

蓮はあの日のことを覚えているだろうか。


「あ、あのさ……」

制服の下に隠したネックレスをぎゅっとしたところで、また背後から乱暴な自転車のブレーキ音。


「のろま」

零は小学生かってぐらい低レベルなことしか言ってこない。

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