甘く、蕩ける。
しかしそれは彼の呼び止めに遮られてしま

った。

「・・・何?」

振り返れば、きっと彼が記憶に焼きついて

しまう。早くここから立ち去りたいのに、無

視していなくなる事が出来なかった。


「これ、良ければ」


そう言って彼が差し出したのは一輪の黄色

い薔薇だった。

「えっ?これ、どうして・・・」

「僕の勝手なサービスです。ぜひ受け取って

ください」

彼は優しい笑みを浮かべている。その薔薇

からは心が和らぐような薔薇の香りがスッ

と漂ってきた。

「・・・いいんですか?こんな事して」

「すみません、嫌・・・でしたか?」

怒って言った訳ではないのだけれど、彼は誤

解したのかシュンと肩を落とす。そんな彼

に、私は一瞬で心を奪われてしまった。

「嫌じゃないですよ。むしろ嬉しい」

彼の顔がパアッと輝く。分かりやすい彼に

思わず笑みがこぼれた。
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