夏木立
時の止まった神社
第4話 時間の止まった神社
俺はこの事象の解明に囚われ始めたようだ。
手紙を受け取った日から始まった、この不思議な感覚は現実から俺を引き離してしまったようだ。
手紙が届いたということは現実なのだろうと思うが……もしかすると、それすら夢だったということもある。
手元にある手紙を見ながら俺は今も夢の中にいるのだろうか? そんな感覚になっていた。
この手紙は現実なのだとしたら、差出人には目的があるはずだ、その意図が気になって仕方なくなりだした。
夢だと思われるところで出会った、大ちゃん、鈴ちゃんも気になっていた。
知りもしない子供に会うことができるのか?
また同じように、いろいろと準備して時間を待っていた。
夢だとしたら、俺はこの時点で寝ていることになるはずなのだが、白々しいと思いながら、頬を捻ってみた……
「イタタタ」寝てはいないようだな。自分の行動が何故か可笑しく思えた。
アパートの前で頬を捻り、笑いだしたら十分に不審者だなと思った。
時間通りにバスが滑り込んできた。
俺は車中の人となって運転席をみた、やはり運転手は居なかった。
真っ暗な車窓からは何も見えなかった。
頬を捻った……痛かった。
前回と同じように、俺は眠ってしまった。
目が覚めたら、フロントガラスには。
枝垂れるようにトンネルになった夏木立なつこだちの道をバスは走っていた。
その後、やはり同じように、俺は橋の袂に立っていた。
「同じだな」俺はそう呟いた。
もう一度頬を捻ってみた……痛い
俺は頬を捻りながら笑い顔になっていた。
橋からの村の風景は同じで、日差しも、川の音も、山の匂いも同じであった。
(戻ってきた)俺はそう思った。
橋を渡り、村に入ったが、やはり人の気配を感じなかった。
俺は、大ちゃんと鈴ちゃんと出会った河原に向かった。
河原には誰も居なかった。体を回して探してみた、白く枯れたような色の鳥居が見えた。俺は川向こうに見える神社に行ってみることにした。
俺は裸足になって、川を渡っていった。
苔生こけむした台の上で、狛犬が俺を見ているように感じた。
靴を履いて、野面積みで作られた階段を登っていったが、鳥居には神社の名前が無かった。
階段を登りきると、目の前に黒く囲まれたバックに白く眩しさを放つ社が浮かんでみえるようだった。
鬱蒼うっそうとした山の斜面に、人工的に作られた平地にある社の前に立っていた。
その社は、長年の風雨に晒されていたのを、柱や板壁の年輪の浮き彫りで知ることができた。
社の上は開けた空が広がっていた、日の光が差し込まない場所なら、周囲の暗い木々の下と同様に苔生して朽ち果てていただろうと想像できる。
足元を見れば、もう何年も人が踏み込んだ形跡が見当たらず。
足元には、ふかふかと山苔やまこけが広がっているだけであった。
村の神社はここではなく、別のところに移転でもしたのだろうかと思った。
社の中を隙間から覗いてみたが、中にお札が見えたが薄暗く読めなかった。
扉を開けるには躊躇ためらいを覚えた。
風の音も、鳥や虫たちの声すら聞こえてこなかった、この場所だけ時間に置き忘れられたと思ってしまうほど静かだった。
俺は社を後にして階段を降り始めた。
「あきら兄ちゃん」女性の声が川向こうから聞こえた。
そこには、男女の学生が河原に居た。
俺は急いで川を渡り、石に腰を降ろして靴を履いた。
男女は俺のそばに来ていた。
顔を上げて2人を見た。
顔には覚えがあったが、俺の記憶の引き出しには該当するものが見当たらない状況だった。
「兄ちゃん、久しぶりだね」女が話した。
「あきら兄ちゃん、待っていたよ」と男は言った。
「あぁ……久しぶりなのかな、2人とも大きくなったね、高校生ぐらいなのかな?」
「うん、大ちゃんは3年で、わたしは1年、同じ高校だよ」
「あれから10年ぐらいになるかな、兄ちゃんは変わらないな」大ちゃんが言った。
「そうなのかな……変わらないか」俺は返事に困った。
2人には10年という時間が過ぎていたのかと思った。疑問はあったが、不思議な疑問の世界で疑問は、おそらく愚問なのだろうなと思っていた。
俺は状況を受け入れることにした。
それに、2人から小さいころに感じた、俺を見る目の温かさが同じだった。
俺の違和感は忽たちまちまどろんでいった。
「大ちゃん、鈴ちゃん会いたかったよ」俺は2人に微笑みながら言った。
「あきら兄ちゃんは、僕と同い年ぐらいだね、これからは あきら と呼よ」
「じゃ、わたしは 亮さん と呼ぶから」
「2人には何と呼べばいいのかな?」俺は聞いてみた。
「あきら の好きでいいよ」大ちゃんはそう言って笑った。
俺はこの時、鈴ちゃんが俺のことを亮さんと言ったことが気になっていた。
亮さんという鈴ちゃんの声の響きに、手紙の亮さんが交錯したように思えた。
そうであるなら、鈴ちゃんが手紙の差出人ということになる。
「あきら 家に来ないか、何か食べよう」
「そうだよね、ここで話していても暑いだけだし、亮さん行きましょう」
「ありがとう、助かるよ、さすがに河原は日差しがきつ過ぎる」
俺たちは、大ちゃんの家に向かった。
「そうだ、この村の名前を聞くの忘れていたよ」俺はそれとなく聞いてみた。
「茨川って村さ」大ちゃんは振り向きもせず話した。
「2人はここが故郷なのだね」俺は呟くように話した。
「亮さん。亮さんの故郷はどこなの?」鈴ちゃんが横を歩きながら俺の顔を見て話した。
「故郷か……実は知らないのだよ……物事が解るようになるころには、すでに孤児院に居たからね」
「そうだよね」鈴ちゃんはそう言って、俺の腕にしがみついた。
俺は驚いたがドキッとする感じにはならなかった、何故か温かく感じたのだった。それは俺には経験のない感じがした。
「おぃ、鈴、元気出して歩け、もう家に着くぞ」大ちゃんは大きな声で言った。
俺はこの事象の解明に囚われ始めたようだ。
手紙を受け取った日から始まった、この不思議な感覚は現実から俺を引き離してしまったようだ。
手紙が届いたということは現実なのだろうと思うが……もしかすると、それすら夢だったということもある。
手元にある手紙を見ながら俺は今も夢の中にいるのだろうか? そんな感覚になっていた。
この手紙は現実なのだとしたら、差出人には目的があるはずだ、その意図が気になって仕方なくなりだした。
夢だと思われるところで出会った、大ちゃん、鈴ちゃんも気になっていた。
知りもしない子供に会うことができるのか?
また同じように、いろいろと準備して時間を待っていた。
夢だとしたら、俺はこの時点で寝ていることになるはずなのだが、白々しいと思いながら、頬を捻ってみた……
「イタタタ」寝てはいないようだな。自分の行動が何故か可笑しく思えた。
アパートの前で頬を捻り、笑いだしたら十分に不審者だなと思った。
時間通りにバスが滑り込んできた。
俺は車中の人となって運転席をみた、やはり運転手は居なかった。
真っ暗な車窓からは何も見えなかった。
頬を捻った……痛かった。
前回と同じように、俺は眠ってしまった。
目が覚めたら、フロントガラスには。
枝垂れるようにトンネルになった夏木立なつこだちの道をバスは走っていた。
その後、やはり同じように、俺は橋の袂に立っていた。
「同じだな」俺はそう呟いた。
もう一度頬を捻ってみた……痛い
俺は頬を捻りながら笑い顔になっていた。
橋からの村の風景は同じで、日差しも、川の音も、山の匂いも同じであった。
(戻ってきた)俺はそう思った。
橋を渡り、村に入ったが、やはり人の気配を感じなかった。
俺は、大ちゃんと鈴ちゃんと出会った河原に向かった。
河原には誰も居なかった。体を回して探してみた、白く枯れたような色の鳥居が見えた。俺は川向こうに見える神社に行ってみることにした。
俺は裸足になって、川を渡っていった。
苔生こけむした台の上で、狛犬が俺を見ているように感じた。
靴を履いて、野面積みで作られた階段を登っていったが、鳥居には神社の名前が無かった。
階段を登りきると、目の前に黒く囲まれたバックに白く眩しさを放つ社が浮かんでみえるようだった。
鬱蒼うっそうとした山の斜面に、人工的に作られた平地にある社の前に立っていた。
その社は、長年の風雨に晒されていたのを、柱や板壁の年輪の浮き彫りで知ることができた。
社の上は開けた空が広がっていた、日の光が差し込まない場所なら、周囲の暗い木々の下と同様に苔生して朽ち果てていただろうと想像できる。
足元を見れば、もう何年も人が踏み込んだ形跡が見当たらず。
足元には、ふかふかと山苔やまこけが広がっているだけであった。
村の神社はここではなく、別のところに移転でもしたのだろうかと思った。
社の中を隙間から覗いてみたが、中にお札が見えたが薄暗く読めなかった。
扉を開けるには躊躇ためらいを覚えた。
風の音も、鳥や虫たちの声すら聞こえてこなかった、この場所だけ時間に置き忘れられたと思ってしまうほど静かだった。
俺は社を後にして階段を降り始めた。
「あきら兄ちゃん」女性の声が川向こうから聞こえた。
そこには、男女の学生が河原に居た。
俺は急いで川を渡り、石に腰を降ろして靴を履いた。
男女は俺のそばに来ていた。
顔を上げて2人を見た。
顔には覚えがあったが、俺の記憶の引き出しには該当するものが見当たらない状況だった。
「兄ちゃん、久しぶりだね」女が話した。
「あきら兄ちゃん、待っていたよ」と男は言った。
「あぁ……久しぶりなのかな、2人とも大きくなったね、高校生ぐらいなのかな?」
「うん、大ちゃんは3年で、わたしは1年、同じ高校だよ」
「あれから10年ぐらいになるかな、兄ちゃんは変わらないな」大ちゃんが言った。
「そうなのかな……変わらないか」俺は返事に困った。
2人には10年という時間が過ぎていたのかと思った。疑問はあったが、不思議な疑問の世界で疑問は、おそらく愚問なのだろうなと思っていた。
俺は状況を受け入れることにした。
それに、2人から小さいころに感じた、俺を見る目の温かさが同じだった。
俺の違和感は忽たちまちまどろんでいった。
「大ちゃん、鈴ちゃん会いたかったよ」俺は2人に微笑みながら言った。
「あきら兄ちゃんは、僕と同い年ぐらいだね、これからは あきら と呼よ」
「じゃ、わたしは 亮さん と呼ぶから」
「2人には何と呼べばいいのかな?」俺は聞いてみた。
「あきら の好きでいいよ」大ちゃんはそう言って笑った。
俺はこの時、鈴ちゃんが俺のことを亮さんと言ったことが気になっていた。
亮さんという鈴ちゃんの声の響きに、手紙の亮さんが交錯したように思えた。
そうであるなら、鈴ちゃんが手紙の差出人ということになる。
「あきら 家に来ないか、何か食べよう」
「そうだよね、ここで話していても暑いだけだし、亮さん行きましょう」
「ありがとう、助かるよ、さすがに河原は日差しがきつ過ぎる」
俺たちは、大ちゃんの家に向かった。
「そうだ、この村の名前を聞くの忘れていたよ」俺はそれとなく聞いてみた。
「茨川って村さ」大ちゃんは振り向きもせず話した。
「2人はここが故郷なのだね」俺は呟くように話した。
「亮さん。亮さんの故郷はどこなの?」鈴ちゃんが横を歩きながら俺の顔を見て話した。
「故郷か……実は知らないのだよ……物事が解るようになるころには、すでに孤児院に居たからね」
「そうだよね」鈴ちゃんはそう言って、俺の腕にしがみついた。
俺は驚いたがドキッとする感じにはならなかった、何故か温かく感じたのだった。それは俺には経験のない感じがした。
「おぃ、鈴、元気出して歩け、もう家に着くぞ」大ちゃんは大きな声で言った。