午後5時、いつものバス停で。
「こーまちっ。」
いつも通りのお昼休み、一番仲の良い優香(ゆうか)に名前を呼ばれて、私は顔を上げた。
「お昼ご飯食べよ!」
優香はいつも通りに机を私の机にくっつけてきて、いそいそとお弁当箱が包まれた黄色い布を解いていく。
私もつられて、お気に入りの赤いお弁当箱を開いた。
「ねえ優香。」
私が呼ぶと、優香はお箸をくわえたまま私に目をやる。
土曜日も日曜日も、そして今日の1限からずうっと頭から離れなかったことを優香に話すことにした。
「あのね、図書館に、変わった人がいるの。」
私が言うと、優香は眉間にしわを寄せる。
「変わった人って、」
「あ、違うの、変な人ってわけじゃなくて、ちょっとだけ変わった人なの。」
私の言葉に余計に眉間のしわを深くする優香に、金曜日にあった出来事を話す。
いつもの、あの人の話。
「ふーん、大学生なのかなあ。変わった人だねえ。」
私の話に、優香が卵焼きを頬張りながら言う。
「今度声掛けてみたら?何してるんですかーって。」
のんびりした声でそう言って、優香は笑う。
「んもう、そりゃあ何でもできてしっかりしてる優香は簡単なことかもしれないけどさーっ…」
優香の言葉に、私は頬を少しだけ膨らませた。
私は小町(こまち)。
名前からすると平安美人の小野小町がすぐに浮かんでくるだろうけれど、なんて取り柄のない冴えない女子高校生だ。
人見知りがちで、引っ込み思案。初対面の人に話しかけるなんてとんでもない。
それに対して、いま隣にいる優香は生徒会長をしちゃうくらいのしっかり者で美人さんだ。よく笑うところが優香らしくて私は好きだ。
しっかり者の優香に相談すれば、何か分かるかもしれないと思ったけれど、そんな簡単に不思議なあの人のことが分かるはずないよね。
私はミニハンバーグを食べながら、そしてあの人のことを考えながら、小さくため息をついた。