軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
「ねえ、あなたがよく口にする女性らしい魅力ってどういうこと?」

侍女にガウンを着せられながら尋ねれば、その女官は一冊の本を開いて見せてくれた。そこにはふくよかな女性が子供を沢山抱いている絵が描かれている。

「一般的には母性を感じる身体つきのことを指します。母性の象徴である胸が豊かであること、子が沢山生めそうなボリュームのあるヒップと太腿があること。それにメリハリを加えるために、細いウエストであることが女性らしい美しさとされています」

帝国だけでなく大陸中で、美女と称えられる女性にはそういう傾向があった。ましてや女性は既婚になって初めて一人前と認められる世の中だ。成熟し色気と気品と知性を感じさせる大人の女性こそが美しいと、社交界では誉めそやされていた。

だからこそ女官らは必死にシーラに美容の施術を施しているのだ。

皇妃の美貌は外交にも国民の支持率にも大きく影響する。シーラは愛らしい容姿ではあるが、女性らしい魅力に溢れているかといわれたら首を傾げざるを得ない。

それに小柄で華奢すぎる身体つきのままでは、いざ子を孕んだときに出産に耐えられるかも心配だ。

シーラの身長を伸ばし、肉づきを良くし、女性らしい丸みを帯びた身体にする。それが美容の女官らに課せられた大事な皇妃育成の使命だった。

本を開きながら説明されて、ようやくシーラは納得した。そしてガウンを開いてもう一度自分の身体をマジマジと眺めてから、女官や侍女らと見比べる。

「……私って、色々と小さい?」

メア宮殿にやって来て間もなく七ヵ月。ようやくシーラは自分のスタイルを世間一般の基準に照らし合わせ客観的に見ることに成功した。果たしてそれが彼女にとって喜ばしいことかは分からないが。

女官達は誰もその質問に対する明確な答えは口にしなかった。ただ曖昧に微笑んで「大丈夫でございますよ。まだまだシーラ様は成長の余地がございます」と視線を泳がせる。

ドレスの胸元から豊かな谷間を覗かせる侍女や女官らと、とてもなだらかな曲線しかない自分の胸を見比べて、シーラはどうしてか気分が沈んでいくのを感じた。
 
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