軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
どういう意味なのかシーラが小首を傾げると、興奮したマシューズに代わってボドワンが詳しく経緯を説明してくれた。
「大戦に勝利した帝国側はフェイリンの王女、つまりシーラ様が健在で王位継承権一位を持っていることを知ると、停戦の条件として王女との結婚を盛り込みました。アドルフ陛下はシーラ様と婚姻されることで、フェイリン王国の共同君主となり、ワールベークとフェイリンを同君連合にされようとしておられるのです」
共同君主とは、ひとつの国を二人以上の君主で統治すること。そして同君連合とは、ひとりの人間が複数の国家の君主になることである。
つまりアドルフはシーラと結婚することでフェイリンの王位も手に入れ、ワールベークとフェイリン、ふたつの国の君主になろうとしているのだ。
マシューズが怒りを思い出したようにこぶしを震わせ、話の続きを紡ぐ。
「当然、フェイリン王国の執政達は皆反対しました。確かにフェイリン王国は敗戦国です。けれど、多額の賠償金を払い領土の一部も差し出し、さらにはカーティス国王まで失っているのです。なのに帝国は、さらに王位を持つシーラ様を奪い、あまつさえ国を同君連合にして支配しようとしている……こんな無慈悲なことがありますか!」
ワールベーク帝国がそんなことを企てていたなどと、シーラは想像もしなかった。
あのアドルフのことだ、きっと何か考えがあるに違いない。けれど何もかもフェイリン王国から奪ってしまっては、あまりに可哀想ではないかとつらくなる。
「講和条約は、アドルフ陛下とクラーラ王太妃殿下との間で執り交わされました。けれど、カーティス様を亡くされたばかりでクラーラ様は正常なお心ではなかったのです。でなければ、こんな酷い条約に署名するはずがありません。今現在、私どもフェイリン王国の執政達で、条約の無効を訴える国際裁判を申し立てているところです。しかし……あの卑怯な男は、それを見込んだうえでシーラ様を強引に帝国へ連れ去り軟禁しておられるのです」
「な、軟禁?」
物騒な言葉にシーラは驚いた。確かに強引にワールベーク帝国へ連れてはこられたが、酷い扱いを受けたことはない。
けれど、教会へ帰りたいと言ったとき却下されたことを考えると、ある意味確かに軟禁なのだろうかと首を傾げた。
「裁判にかけたところで、フェイリン王国は現状たいへん不利な立場にあります。敗戦国であること、カーティス様が殉難され臨時で王権執行の代理人となったクラーラ様が条約の署名をしたこと。そして何より、『シーラ様が自らのご意志でアドルフ陛下との結婚を望み帝国におられること』が、大きな理由なのです」