軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
ワールベーク帝国からフェイリン王国までは、船を使ってざっと八日かかった。

ワールベークの狩猟公園から河川までの馬車も、河川や湾口から乗った船も、まるで人目を忍ぶかのように小さく目立たないものだったが、フェイリン王国の港についてからは盛大な歓迎を受けた。

船の中で金糸の薔薇模様が刺繍された華々しいドレスに着替えさせられたシーラは、マシューズのエスコートで船のタラップを降りるなり、出迎えた数十人もの兵士達に最敬礼で迎えられた。さらには衛兵らが護衛する通りの外には大勢の国民が手に国旗を持って集まっており、シーラの帰国を喜ぶ声をあげている。

「見てください、皆シーラ国王陛下のお帰りを心からお待ちしていたのです」

マシューズは嬉しそうに目を細めて言ったが、シーラは戸惑ってしまう。

自分は国王の座につくために帰ってきた訳ではない。今回はあくまでクラーラに会いにきたのだ。

クラーラとの面会が終わり再びワールベーク帝国に戻ってしまったら国民はガッカリするのではないかと思うと、華やかな歓迎に応える気持ちにはなれなかった。

港でシーラを待っていたのは国民だけではない。車体に金の蔓薔薇がビッシリ装飾された六頭立ての豪奢な馬車と、それをずらりと取り囲む竜騎兵連隊、歩兵連隊、軍楽隊の大仰な隊列だ。

軍楽隊のファンファーレが港町に鳴り響き、祝砲までも打ち上げられる。これではまるで国王帰還の祝賀パレードではないかと、シーラはますますハラハラとした。

馬車に乗ってからも沿道から大勢の人々が「シーラ様万歳!」の声をあげ、旗を振り、花吹雪を降らせてくる。どうしていいか分からずにいると、隣の席に座ったマシューズから、「手を振って民にお応えください」と促されてしまった。
  
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