軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
フェイリン王国の王城であるエグバート宮殿についてからも、シーラを戸惑わせる歓迎は続いた。

執政や大臣、廷臣らの挨拶がずらりと続き、最後はシーラの身の回りの世話をする侍女や相談役まで紹介されたのだ。

この流れには覚えがある。初めてメア宮殿へ入ったときと同じだ。

まるでこれからもずっとここで暮らすかのような扱いを受けてしまい、さすがに嫌な予感がよぎる。

「あの……私はワールベークへ帰れるのですよね……?」

マシューズらが本当はシーラを国王として迎えたいことは分かっている。まさかこのまま玉座につかされてしまうのではないかと懸念を抱かずにはいられない。

するとマシューズは上機嫌の様相でシーラの背を押し、宮殿を案内しながら言った。

「ええ、もちろんですとも。けれど十八年ぶりの御母堂との再会、そして生まれ故郷へのご帰還なのです。しばし腰を落ち着け、ごゆっくりお過ごしください」

彼の心遣いはありがたいが、腰を落ち着けている余裕はない。アドルフへの書置きにはすぐ帰ると綴ったのだ。クラーラと面会をしたら、すぐに戻るつもりだ。

しかしシーラは豪華な私室を与えられてしまい、歓迎の晩餐会を開かれたうえ、その日はクラーラはもう眠っているからという理由で肝心の面会すらさせてもらえないまま一日が終わった。
 
< 122 / 166 >

この作品をシェア

pagetop