軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
***

しかし。

こんなにもシーラが母に会いたいと願っているのに、肝心の面会は次の日になっても叶わなかった。

「信じられないわ! やっぱりマシューズ達は私をここへ引き止めるつもりなのよ!」

与えられた私室でプリプリと怒って見せるシーラに、眉尻を下げて悩ましい表情を浮かべるのはボドワンだ。腕を組んでうーんと考え込んでしまう。

「侍医の言うことも分からなくはないのですが……、確かにおかしいですね」

医師が言うには、クラーラの精神状態はまだ安定しないらしい。一度崩してしまうと安定するまでは数日掛かるのが当たり前だと説明していたが、彼女の命が風前の灯火だということを考えると、そんなに悠長には待っていられないはずだ。

やはりマシューズ達はクラーラとの面会を餌に、シーラを王に担ぎ上げようとしているとしか思えない。今日も面会はできなかったのに、やらされたことといえば執政達との会談だ。

シーラはワールベークで皇妃教育は施されたが、政治についてはほとんど学んでいない。ましてやワールベークとフェイリンでは政治体制が違うのだ。会談のテーブルにつかされたところで、ちんぷんかんぷんである。

予備知識もないシーラは無知をさらすだけの時間となり、非常にいたたまれなかった。会談後にマシューズは『これからは私がお助けいたしますよ』などと調子のいいことを言っていたが、それならばあらかじめ最低限の知識ぐらいは教えてくれていたらよかったのにと思う。
 
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