軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
クーシーが無事につくことを祈っていると、やがて空の昇降機が戻ってきた。ホッと息をつき、今度は自らが乗り込む。

運ばれる食器のような気分で小さな箱型で下ろされていくと、ガタンという音と共に下降が止まった。そして目の前に蝋燭の灯りが差し出され「大丈夫ですか?」とボドワンが覗き込んできた。

「大丈夫よ。ちょっと怖かったけど面白かった」

昇降機から降りると、すぐにクーシーが身を摺り寄せてきた。その顔は『どうしてこいつとふたりきりにしたんだ』と少し不満そうに見えるのは、シーラの気のせいだろうか。

頭を撫でてやってから、シーラは真っ暗な厨房の裏口から音をたてないように表へ出る。外はシーラの蜂蜜色の髪をさらうほど夜風が強かったが、おかげで雲が晴れて月が煌々と辺りを照らしてくれていた。

「あの建物が、クラーラ様が現在お住まいになっている離宮だそうです」

宮殿の敷地内の小さな湖を渡った向こうに、まるでそこだけ独立しているかのように庭と柵に囲まれた箱型の建物が見える。大戦の後、床に臥せってからクラーラはずっとそこで過ごしているらしい。

いよいよ母に会えるのだと思うと、シーラの中に感激と緊張が迸って背筋が震える。

「……行きましょう」

逸る気持ちを抑えながら、シーラは慎重な足取りで周囲を警戒しながら離宮へと向かっていった。

建物への侵入は思ったよりも容易かった。

入口の門の前に警備の兵が立っていたが、クーシーが離れた場所から吠えて彼らを引きつけることに成功したからだ。

まんまと無人になった門を通って、敷地内に入りボドワンと共に裏口を探していると、役目を果たし終えたクーシーがひょっこりと戻ってきた。きっと追いかけてきた兵士をどこか遠くへ置き去りにして、さっさと戻ってきたのだろう。
 
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