軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
アドルフに礼を述べた直後、気を失ってしまったシーラが目を覚ましたのは、それから三日後のことだった。
ワールベークへ帰る船の中で目覚めたシーラは、自分がそんなにも長く寝ていたことに驚き、それから自分の身体があちこち傷だらけなことにさらに驚いた。
「だって逃げることに夢中で全然気にしてなかったんですもの」
頭と手足にグルグルと巻かれた包帯を見て他人事のように呟いたシーラに、看病に当たっていた侍女と侍医は苦笑を零す。
何せあれから大変だったのだ。なかなか目を覚まさないうえに、怪我の痕が残ってしまうかもしれないと侍医から報告を受けて、アドルフがどれほど心配したことか。
幸い、深い傷はなく神経に支障はなかった。縫合が必要な傷もあったが小さなものだし、そのうち傷跡は薄くなるだろうとのことだった。
シーラは身体を綺麗に拭いてもらい、三日ぶりの食事をとりながら、侍女の話を聞いた。
「とはいえ、まだ安静になさってくださいね。動くとせっかく治療した傷が開いてしまいますから」
心配してくれるのはありがたいが、それより聞きたいことが沢山あってシーラは焦れる。
「ねえ、私のことはもういいから。それより――」
食後のココアを飲みながら尋ねかけたとき、部屋にノックの音が響いた。返事を待たずに入ってきた人物の姿を見て、シーラはパァっと破顔させる。
「アドルフ様!」
思わずベッドから降りようとするシーラを侍女が留めるのを見て、アドルフもフッと顔を綻ばせる。
「目が覚めたと聞いたから来てみたが、思ったより随分と元気そうだな」
そして人払いをしシーラとふたりきりになると、ベッドの脇に置かれた椅子へと腰を下ろした。
「傷はどうだ。痛くないか」
「はい、大丈夫です!」
包帯の巻かれた頭を労わるように優しく撫でられて、シーラは嬉しくてたまらなくなる。
フェイリン王国の離宮で彼の深い愛に気づいてから、ずっと会いたくて、彼の胸に飛び込みたくて仕方なかったのだ。それに言いたいことも聞きたいことも沢山ある。
何からどうやって切り出せばいいのか迷いアタフタとしていると、頭を撫でていた手が離れ、ゆっくりと背を抱き寄せられた。