軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
「アドルフ様の手は大きいだけじゃなくて硬いですね。男の人はみんなそうなのですか? それともアドルフ様が特別?」
初めて男の人の手をマジマジと見つめ、ふれる機会は新鮮で、シーラは夢中になってしまう。
しかし、問いかけに対しいつまでも返事がないのでアドルフの顔を見上げると、彼はもう片方の手で口もとを押さえ、眉間に皺を刻んで、非常に難しい表情をしていた。頬がほんのり赤く見えるのは気のせいだろうか。
「アドルフ様? ……大丈夫?」
なんだか様子のおかしい彼に驚き、小首を傾げて顔を覗き込む。するとアドルフは合わせていた手をパッと離し、シーラに背を向けてドアに向かって歩いていってしまった。
「さっさと行くぞ。俺は忙しいんだ」
つっけんどんな口調で言われ、また彼は怒ってしまったのだろうかと思いシーラの表情が曇る。
けれどアドルフはドアの前で振り返りシーラのもとまで戻ると、ソファーの背に畳んで掛けられていたカシミアのショールを手早く肩に掛けてくれた。
「温かくして行け。……風邪をひくな」
華奢な肩からショールがずり落ちないように、アドルフは自分のクラヴァットピンを使い、丁寧に前をとめてくれた。
自分よりもずっと大きくて無骨な指が器用に世話を焼いてくれるのを、シーラはなんだか不思議な気持ちで見つめる。
「自分でできるのに……」
ぽつりと呟けば、アドルフはハッとしたように顔を上げ「そうだったな」とショールから手を離した。
けれど、侍女達に着替えを手伝われているときのような不満な気持ちは、不思議と湧かなかったので、シーラは素直に「ありがとうございます」と礼を述べた。