軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
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アドルフがシーラを連れてきた場所は、宮殿の庭園の一角にある果樹園だった。
広大な敷地にリンゴやマルメロ、モモにブドウ、低木のベリー類まで色とりどりの果樹が植えられているここは、栽培よりは庭園の景観としての意味合いが大きい。あちらこちらにベンチやテーブルが置かれ、お茶やピクニックが楽しめるようになっている。
「果物がいっぱい……!」
ちょうど収穫期でたわわに実っているリンゴやイチゴなどを見て、シーラが目を輝かせた。
「人の多い宮殿が落ち着かないというのなら、ここへ来たらいい。森に囲まれて育ったお前にとっては、居心地の悪い場所ではないだろう」
アドルフがそう説明するが早いか、シーラはすでにクーシーと一緒に駆け出していってしまった。
「見て、クーシー! こんなにたくさんのベリーがあったら、いくらジャムにしても食べきれないわ!」
踊るように身を翻しながら、どんどん先に進んでいってしまうシーラをアドルフは止めようとして、やめた。特に迷うような場所でもない、止めるのは無粋な気がした。
アドルフは手近なベンチに腰を下ろし、シーラが戻ってくるのを待つことにする。姿は隠れてしまったが、楽しそうな声は聞こえているので大丈夫だろう。
その予想通り、シーラはすぐに戻ってきた。手に赤い実を持って。
いくら景観重視の果樹園とはいえ、宮廷の大切な食材であるし、手入れをしている者だっている。勝手にとってきてはいけないと、アドルフが口を開きかけたときだった。
「食べて、アドルフ様! とっても甘いわよ!」
満面の笑みを浮かべたシーラが、有無を言わさずアドルフの口に果実を押し込できた。