軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
シーラの指が口の中に入ってきたことに、隠しきれない動揺が走る。その細い指を噛まないようにして口から抜き取らせると、舌の上に載せられた小さな果肉を咀嚼した。
「――っ!?」
途端に口の中に酸味と渋みが広がり、アドルフは目を見開いて口元を押さえる。
「あはは! アドルフ様、引っかかった。コケモモよ」
コケモモの実は美味しそうに熟していても、そのままでは甘くない。アドルフは口の中を酸味でいっぱいにするそれを無理やり飲み下し、口元を手で拭った。
勝手に果実をとってきたあげく、皇帝に悪戯をしかけるとは言語道断である。本来なら厳しく叱るべきだろう。
けれど、目の前で朗らかに笑うシーラを見ていると、不思議とそんな気は失せてしまう。
「はい、これは本当に甘いわ」
隣にちょこんと座ってスカートの上に小粒のイチゴを広げたシーラは、その中の一番赤く熟れたものをつまんで、こちらに差し出してきた。
赤く瑞々しい果実をつまむ真っ白な指に、アドルフの中に妙な高揚が芽生える。
素直にそれを口で受け取れば、シーラは嬉しそうに微笑んだあとスカートの上のイチゴを、今度は自分の口に運んだ。
唇が果汁の赤色に汚れ、それを小さな舌が舐めとる。
視界の端でじっとその光景に見入ってしまっていたときだった。
「陛下ー、いらっしゃいますかー?」