軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
***
「もうやだあ!」
基礎知識の説明が終わり、本格的な皇妃教育が開始されて一日目。
シーラが最初に音を上げたのは作法の授業だった。
なにせ教会にいた頃は森を自由奔放に駆け回っていたのである。果実をとるために樹にだって登ったし、水汲みなどの体力仕事も日課だった。床にだって平気で座ってしまうし、笑うときは口を開けて笑う。それがシーラにとって普通だったのだ。
それなのにここでは、それがすべて駄目だという。歩き方や姿勢はもちろん、手指の動かし方、口の開き方、果ては目線の動かし方にまで難癖をつけてくるのだ。
あまりに自由がなさ過ぎて、教育係の女官のいうことを聞いていたら、身体が石になってしまう気がする。
窮屈さに辟易として思わずうんざりとした表情を浮かべると、すかさず「皇妃たる者、人前でそのようなお顔をなさってはなりません!」と叱責が飛んできて、シーラはついに音を上げて部屋から逃げ出したのであった。
地獄のような作法教育の後は、打って変わって楽しいダンスレッスンだった。
ワルツもポルカもカドリールも踊ったことはないけれど、シーラはあっという間にステップを覚えた。指導係が言うには、シーラはリズム感がとてもいいらしい。それに加え、宮廷暮らしのご婦人方よりずっと体力があるのだ。
踊っていても楽しいし、褒められれば嬉しい。シーラはすっかりダンスの時間が好きになった。
昼休憩を挟んで、今度は座学の時間になる。
幸いにもワールベークとフェイリンは共通言語であるが、帝国内には古い言語を使う人種も多い。また、皇妃にとって諸外国との交流は避けられないことだ。まずは語学の勉強が徹底して行われる。
そうしてようやく日が暮れ、長時間に渡った座学は終わるが、帝国に相応しい皇妃を作るための時間はまだまだ続く。