軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
「もうやだあ!」
シーラが二度目の音を上げたのは、晩餐後の湯浴みの時間だった。
ただでさえ侍女や召使の手を借りて湯浴みをするのは嫌なのに、今夜からは特別なマッサージがされるというのだ。
女性らしい体つきになるための、特別なマッサージが。
真っ裸で立たされたと思ったら何やらねっとりとした液体を塗られ、あちこちを揉まれ始めたシーラはあまりのくすぐったさにゲラゲラと笑い転げたあげく、身を捩って侍女たちの手から逃げ出してしまう。
「ああ、駄目ですよ、シーラ様! これをされないとお胸が大きく……いえ、お身体が美しくなりません!」
「さあ、陛下のために、もうしばらく辛抱されてください」
「嫌! なんだか気持ち悪いもの!」
こんな気色悪いことをされて、耐えられる訳がない。まるで調理台の上でスパイスを揉み込まれている肉になった気分だ。
侍女の手から逃げるため浴場を走り回っていたシーラはついに追い詰められてしまい、手元にあったガウンを羽織ると、なんと浴室から飛び出してしまった。
「シーラ様!」
侍女達の制止を振り切り、シーラは三階にある自分の部屋に向かって廊下を走り階段を駆け登る。濡れて梳かしていない髪に、ガウン一枚というあられもない格好で走るシーラに、すれ違った侍従や衛兵らが当然目を丸くする。
三階まであと少しというときだった。騒ぎを聞きつけて上の階から降りてきたアドルフとシーラは会談の踊り場でぶつかってしまった。
「きゃ……!」
勢いよく衝突したふたりだったが、転げたのは軽いシーラの方だけだ。アドルフは驚きはしたものの、ビクともしていない。
転んだせいでガウンの前身ごろが、大きくはだけた。「いたた……」と言いながらシーラが身体を起こすと、申し訳程度に結ばれていた紐がほどけて、はらりとガウンが全開になる。