軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
「シーラ様……っ!」
近くにいた侍従や衛兵らが大慌てで顔を逸らす。うら若き未婚女性が、しかも皇妃となる女性が人前で裸をさらすなど前代未聞である。男達はひたすら顔を背け、シーラとアドルフの不興を買わないように気配を消した。
宮廷中に妙な空気が流れ、侍女達が手にリネンを持って大慌てで駆けつけてこようとしたときだった。
アドルフが何かを言おうと口を開きかけて噤み、床にへたり込んでいるシーラの前に膝をつく。
「……女はみだりに肌をさらしてはいけない。それに、こんな格好で廊下を歩いたら風邪をひく。二度としないように。分かったな」
そう言って彼はシーラのガウンの前身ごろを丁寧に閉じ、紐をきっちりと結んだ。
てっきり、また溜息を吐かれるのではないかと思ったシーラは、彼が怒ってはいなさそうなことにホッとする。と、同時に。
「……ごめんなさい」
何故だか急に自分の行いが恥ずかしくなって、顔を赤く染めて頭を下げた。
女性はみだりに肌をさらしてはいけないということは、少女の頃からシスターに学んでいた。けれど、滅多に他人と、ましてや男性と会う機会のなかったシーラには、それがどういうことなのかいまいちよく分かっていない。
侍女達に着替えや入浴を手伝われるのもなんとなく嫌な気分だったけれど、アドルフの目に自分の裸をさらしてしまったと思うと、耐え切れないほど胸が落ち着かなくなる。
(嫌だ、恥ずかしい。すごく、すごく恥ずかしい……!)
どうしてそんな気持ちになるのか分からない。けれど、今すぐ彼の記憶からこの出来事を消し去るか、自分がこの場から消えてしまいたいと思うほど恥ずかしくてたまらなくなった。
「立てるか」
アドルフはそう言って手を差し伸べてくれたけど、とてもそれを握る余裕はない。眦に涙まで浮かんできた真っ赤な顔を俯かせて、シーラは自力で立ち上がる。
そしてアドルフの顔を見ることができないまま踵を返すと、おとなしく浴室へと戻っていった。