軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
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「クーシー、私やっぱりここにいるの嫌」
ようやく宮殿の灯りも消えた就寝時間。
シーラは広すぎて落ち着かないベッドの隅っこで、クーシーと身を寄せ合って寝ていた。
「ダンスは楽しかったけれど、それ以外はつまらなくて窮屈なことばかり。それに、私を裸にして変な薬を揉み込むのよ。気持ち悪いったらありゃしない。私は塩漬けの鹿肉じゃないわ」
ブツブツと文句を零せば、クーシーの耳が時々ピクピクと動く。瞼は閉じているが、耳は傾けてくれているのだろう。
「それにね、それに……」
シーラはモゴモゴと言いかけて口を噤み、赤くなった顔を枕に押しつけた。
(アドルフ様に裸を見られて、とっても恥ずかしかったの……)
クーシーに聞いて欲しかったはずの吐露はとても口には出せなくて、心の中でだけ呟く。
どうしてこんな気持ちになるのか、自分でも分からない。けれど、アドルフの琥珀色の瞳が自分の裸を見つめたのだと思うと、頭が沸騰しそうなほど熱くなって、涙が出そうになるのだ。
「明日、アドルフ様と会うの嫌だなぁ……」
果樹園に連れていってもらったときから、彼のことはあまり苦手ではなくなっていた。むしろ慇懃に接してくる侍女達よりも、アドルフの方がずっと喋りやすい気がする。
それなのに、恥ずかしいことをしてしまったと思うと、彼と顔を合わせることが憂鬱になってしまった。
嫌いになった訳でも、苦手になった訳でもない。けれど、顔を合わせづらい。シーラは自分がどうしてそんな気持ちになるのか分からないまま、悶々とした気持ちで眠れぬ夜を過ごした。