軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
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翌朝。
いつものように侍女に身支度を整えられて朝食室へ向かうと、アドルフが先にテーブルについていた。
「……おはようございます」
「おはよう」
気まずそうにモジモジしているシーラとは対照的に、アドルフはなんら変わりない。
それは安心すべきことのはずなのに、シーラは自分だけが落ち着かない気持ちを抱えているようで、なんとなく拗ねた気分になりながらテーブルについた。
宮殿での食事は、一日に二食から三食となっている。朝食はアドルフとふたりきりでとるが、昼は彼の公務の都合でそれぞれ別だ。シーラは今のところ毎日昼食をとっているが、午前と午後にお茶会があるときなどは、昼食をとってもとらなくてもいいことになっている。
晩餐はいずれ一緒にとるようになるが、今は別々だ。アドルフは皇帝として晩餐会を開くことも招かれることもあるし、軍議などが長引けば会議室で軽食のみで済ませることもある。
それにシーラはまだ公の晩餐会に出席できるほど、宮廷のテーブルマナーが身についていない。今は作法教育の女官のもと、マナーのレッスンも兼ねての晩餐になっている。
つまり、アドルフと食事を共にできるのも、また、多忙な彼と確実にゆっくり顔を合わせることができるのも、今のところ朝食の時間だけなのだ。
「……きょ、今日はいいお天気ですね」
「ああ、そうだな。風は冷たいが、日はよく当たっている」
「……こ、このスープ美味しいですね」
「そうか、今朝とれたカブを使っているそうだ。もっと欲しければ遠慮なく給仕の者に言え」
会話をしても、アドルフはやはりいつも通りである。シーラが話しかければ、足りないでも多いでもない自然な言葉が返ってくる。
(私だけ恥ずかしがってソワソワしてるの、なんだか馬鹿みたい)
あまりにもアドルフが普通だから、シーラはかえって混乱してしまう。
そもそも、どうしてこんな気持ちになるかよく分からない。恥ずかしいのは見られた方だけで、アドルフは何か思うところはないのだろうかと不思議にさえなってくる。