軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
アドルフ皇帝は帝国から船と馬車を使い五日かけてこの地へ来て、さらに三日かけて山を越え森を彷徨い、この古めかしい教会へとやって来た。
教会といっても小さな礼拝堂があるだけで、あとは小さな調理場と小さな水場、小さな食堂と小さな寝室があるだけの、本当に小さな建物だ。しかも人里離れ、鬱蒼とした森の奥にあるのだから、拝礼者が通っているとは思えない。
たいへんな労力と時間をかけて、わざわざこんな所まで皇帝自らが足を運んだのには理由がある。
ここに彼の花嫁となる女性、フェイリン王国のシーラ王女がいると聞いたからだ。
彼女はとある理由から、フェイリンの王宮から遠く離れたこの地で、老いたシスターとふたり暮らしをしている。
その情報の真偽を確かめるため、そして自らの手で花嫁を迎えに行くため、アドルフは多忙な政務の間を縫って、わざわざ他国の僻地まで旅をしてきたのだ。
そうしてようやく目的の教会に着き、礼拝堂にいたシスターに事情を話せば、確かにシーラはここにいると頷いてくれたのだ。
政略結婚とはいえ自分の伴侶となり子を生む女との初対面だ。アドルフもそれなりに気分が高揚した。しかし。
「こちらがシーラ様でございます」
居間へ案内してくれたシスターが紹介したのは、暖炉の前に大きなハウンドドッグと寄り添って座り、黙々とクルミの殻剥きをしている、どこからどう見ても結婚適齢期には満たない少女だった。
立派な軍服を着た大人の男が突然ふたりも現れたことに、シーラはとても驚いた様子だった。
膝に載せていたクルミの殻をパラパラと落としながらピョコンと立ち上がると、どうしていいのか分からずキョロキョロとしたあと、とりあえず小さく頭を下げたのだった。