軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
シーラに悪気があった訳ではないのは分かってはいるが、大人として、皇帝としての威厳が許さない。

最近は多少互いの距離が縮んできたように思えていた。まだまだ未熟な部分は多いが、それを温かい目で見守ってやれるぐらいに情が湧いてきたところにこれである。

半裸で廊下を走り回ったあげく人前で肌をさらした行為にもさすがに頭を抱えたくなったが、寛大な心でそれを許した。しかし追い打ちをかけるように恥辱めいた言葉をねだられれば、つい突っぱねた物言いになってしまうのも仕方のないことだろう。皇帝の慈悲にも限度がある。

王家の気品からは程遠い、自由奔放すぎる心と身体。果たして自分はあの無垢極まりない娘に皇妃としての敬意を抱けるのだろうかと不安になる。

けれど。

シーラの麗しい唇から紡がれる極上の歌声が、アドルフの胸を掻き乱したことは事実だ。

そして、彼女に苛立ちを感じる反面、あの歌声を思い出すだけで鼓動が高鳴るのはアドルフにとって生まれて初めての経験で。

(……もっと聴かせてくれたっていいだろうが。俺は夫になる男だぞ)

シーラに突っぱね返されて拗ねた気持ちを抱いてる自分に戸惑いを覚えながらも、アドルフはもう一度歌声が漏れ聞こえてくることを期待しながら廊下を歩いた。
  
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