軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
***
一方、アドルフに反抗的な態度をとってしまったシーラは、硬く閉じた扉の前で膝を抱えてうずくまっていた。
「シーラ様、あの……?」
音楽の講師が気にして声をかけるも、シーラは膝に顔を突っ伏して身じろぎしない。
(怒ったかな、アドルフ様……。でも、でも、アドルフ様に見られるのは嫌なんだもの)
自分でも理解できない鬱屈とした気持ちが、胸をいっぱいに覆って困る。どうして彼に色々な感情が湧くのか、さっぱり分からない。
今朝、アドルフに言われたことが、そんなに尾を引いているのだろうか。自分はそんなに人の言動を気にする性格だっただろうかと、我ながら驚いてしまう。
宮殿に連れてこられてから、いや、アドルフが教会に迎えにきたあの日から、シーラの心はせわしなく動きっぱなしだ。驚きに揺れ、理不尽さにしぼみ、ときに喜びに輝く。十八年間ずっと穏やかだった心にいっぺんに沢山の刺激が与えられれば、感情も思考も混乱するのは当然のことかもしれない。
「教会に帰りたい……」
平和で安穏としていた生活に戻りたいと思う。森に囲まれた静かな生活が懐かしい。
けれど、このまま帰るのは嫌だと心の奥で何かが燻っている。
(……アドルフ様は、もう私とおしゃべりしてくれないかしら……)
彼ともう顔を合わせたくないと思うのに、気になって仕方ない。こんなにソワソワする気持ちも、初めてだ。
それは恋などと呼ぶにはあまりに未熟だけれど、確実にシーラの心に根づき、芽吹き始めようとしていることは確かだった。