軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
その日、宮殿はピリピリとした雰囲気に包まれていた。
シーラがアドルフに迎えられ、ここメア宮殿に移り住んでから一ヶ月が経とうかという頃。ようやくフェイリン王国の大使らがシーラに謁見しにきたのだ。
朝からシーラは公服のドレスに着せ替えられ、巻かれた髪を結いあげられ、化粧を施された。生まれて初めての正装である。
この国に来てから華やかなドレスを着せられ髪も綺麗に梳かれてはいたが、ここまで立派に整えられたのは初めてだった。
ワールベーク帝国とフェイリン王国の婚約は公式に発表されてはいるが、シーラの姿はまだ公にされていない。彼女が晩餐会に出席したり国民の前に姿を現すのは、皇妃教育を受け終わった一年後の結婚式からと決められている。
つまり今日は、結婚前の例外的なシーラの公務日なのだ。
鏡に映った自分がみるみる姿を変えていくことに、シーラはただひたすらポカンとしていた。
若草色のエンパイアドレスはハイウエストで、蔦模様の銀糸刺繍が施された長いトレーンが腰から伸びている。襟にも銀糸刺繍が施されたレースがあしらわれ、とても品がある。
大きく開かれた胸元には豊かな谷間がない代わりに、大ぶりのネックレスを飾られた。こちらも蔦を模したデザインで銀とダイヤでできている。
洗練された豪華なドレスを召しただけでも普段よりずっとおしとやかに見えるというのに、丁寧に髪を結いあげられジュエリーのヘッドドレスを飾られ、白粉と口紅で化粧までされると、シーラはもはや自分が誰だか分からなくなった。