軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
***

謁見の間に入ると、すでにアドルフが玉座に着いていた。

シーラは謁見の間に入るのも初めてだ、思わずキョロキョロとしてしまう。

縦長の部屋は金細工の壁と彫刻のついた大理石の柱に囲まれており、天井には宗教画が描かれている。煌びやかだけれど厳かな雰囲気も漂っているのは、部屋の最奥に飾られたヴァイラント=インゼルーナ家の紋章である鷲と王冠が描かれた金と黒のタピストリと、その手前にある金とビロードでできた二対の玉座のせいだろう。

壁に沿って規律正しく立ち並ぶ衛兵らの前を通って、シーラは宮廷顧問官の案内で玉座の前まで行く。

「陛下。シーラ様をお連れしました」

シーラが来たことに気づいたアドルフが間近でその姿を見止めて、目をしばたたいた。

その様子を見て、シーラの胸がわくわくと弾む。

(もしかしてアドルフ様、私って分からなかった?)

相変わらずシーラは、アドルフの言動が気になっている。気になり過ぎて些細なことでしょんぼりしたり、逆に楽しくて仕方なくなることもしょっちゅうだ。

だから、大変身したこの姿を見て彼がなんと言うのか、シーラは気になって仕方ない。ところが。

アドルフは表情をいつものように冷静なものに戻すと、静かに「座れ」と命じただけだった。

当然シーラはがっかりするが、ふと見ると周囲もいつもと様子が違うことに気づいた。

玉座の周りには近侍侍従長であるヨハンをはじめ、近侍侍従武官長や宰相などの側近の他、将校らの武官の姿も見える。

彼らはアドルフの側にいることが多いが、シーラと接するときはにこやかに声をかけてくれる。特にヨハンなどは、彼女が堅苦しい挨拶が嫌いなのを知っているので気さくな雰囲気で接してくれていた。

しかし今日は、みんな揃いもそろってしかめっ面である。

美しく装ったシーラの姿に驚いた顔をした者もいたが、すぐに表情を引きしめた。
 
< 37 / 166 >

この作品をシェア

pagetop