軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
(……嫌な雰囲気。なんだかみんな怒ってるみたい)

張り詰めた空気に怪訝な顔をしながら、シーラはアドルフの隣の玉座に腰を下ろした。

「シーラ」

腰を下ろすなりアドルフに呼びかけられた。「なんでしょう」と返すと、彼は視線を前に向け続けたまま言葉を発する。

「これから客人が来るが、お前は何も話さなくていい。ただ背筋を伸ばし、堂々と座っていろ」

妙な指示を受けてしまい、シーラは不思議に思ったがコクリと頷いた。

何もしゃべらないのだったら、どうして自分もここに居合わせなければならないのだろうか。しかも、来るのはフェイリン王国の者だと聞いている。だったらなおさら、シーラが声を掛けなくてはいけないような気もするが、アドルフがそう言うのなら従うしかない。

言われたとおりに姿勢を正し玉座に腰掛けていると、やがて扉の前にいる衛兵が声をあげた。

「フェイリン王国バイロン・マシューズ=アッシュフィールド公爵閣下、王国大使チャド・ノーランド様のお出でです」

衛兵の手によって開かれた扉から、ふたりの男が入ってくる。白髪の初老の男と、ブルネットの髪をした中年男だ。ふたりとも朱色の軍服を着ているが、初老の男の方は飾帯を肩から掛けている。左胸に飾ってある勲章も多いのできっと彼の方が偉いのだろうと、シーラは教育係に教わったことをぼんやりと思い出した。

ふたりの男は玉座の前まで来ると恭しく頭を下げた。かと思うと初老の男はシーラの顔をじっと見つめ、なんとポロポロと涙を流すではないか。

「おお……、シーラ様……! よくぞご無事で……!」

初老の男が涙にむせびながら一歩、二歩と玉座に近寄ってくるのを見て、シーラは戸惑う。

(ど、どなた……? どうして泣いているの?)

いかにも感激している様子で男がシーラに向かって手を伸ばそうとしたときだった。
 
< 38 / 166 >

この作品をシェア

pagetop