軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
「さわるな!」
突然アドルフが声を張り上げた。
その怒声に反応して、側にいた衛兵がシーラと男の前に立ちはだかる。
部屋はさらに高まった緊張感に包まれ、初めてアドルフの怒鳴り声を聞いたシーラはすっかり驚いて萎縮してしまった。
彼は難しそうな顔をしていることが多いし、決して愛想の良い方ではない。けれど、シーラの前でこんなに怒りをあらわにしたことはなかった。
おそるおそる隣を窺うと、アドルフは初老の男に厳しい視線を向けている。怒りと侮蔑の混じった目だ。
アドルフはいったい何をそんなに怒っているのだろうか。どうして側近や将校たちも皆、ピリピリとした雰囲気を醸し出しているのだろうか。シーラは不安になってきてしまった。
「今現在、シーラは我が国の保護下にある。むやみな接触は遠慮してもらおう」
低く威圧的な声でアドルフが言い放つと、初老の男は一瞬苦々しい表情を浮かべた後、すぐに笑顔を取り繕う。
「これは失礼いたしました。シーラ様がご立派にお育ちになっていたことに感激してしまいまして……、私にとってシーラ様は孫のようなものです。可愛い孫娘との再会に年寄りが我を忘れた無礼を、どうぞお許しください」
(孫……?)
男の言葉にシーラは目をしばたたかせる。
そういえばさっき衛兵が男のひとりを『バイロン・マシューズ=アッシュフィールド』と呼んでいた。アッシュフィールドといえばフェイリン王家、シーラと同じ家名だ。ということは、この初老の男がバイロン・マシューズで、おそらくシーラの遠縁にあたる親戚なのだろう。