軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
しかしもちろんシーラはこの男に会ったことがない。再開をそんなに懐かしまれても、ピンとこなかった。
すると、厳しい顔つきをしていたアドルフがフッと笑った。口角だけを上げ、蔑む視線を向けたまま。
「よく言う、十八になるまで見捨て続けた哀れ子に向かって。貴様、この娘を思って泣いた夜があるか? この娘の無事を神に祈ったことが一度でもあるか? ないのなら二度と白々しい茶番を見せるな」
強い口調で言い放ったアドルフに、マシューズがギリッと奥歯を噛んで睨み返す。そこにさっきまでの感涙する姿や愛想笑いのような人の良さは見えない。
「随分と尊大な物言いで。まるでシーラ様はすでに我がものだと言わんばかりですな」
冷静さを取り戻したマシューズが、姿勢を正して言葉を返す。口調こそ抑えてはいるが、視線は強くアドルフに向けたままだ。
「それの何が悪い。シーラは俺の妻となる、妻を守るのは夫の務めだ」
「私どもはまだ条約を認めておりません。それに、シーラ様を利用なさろうとしているのは、アドルフ陛下も同じでしょう。……ご自分の権力拡大のため、このような右も左もわからぬ少女の身体を開き孕ませることの方が、よほど冷酷でいらっしゃる」
マシューズの言葉を聞いて、アドルフの顔色が変わった。怒りの形相をあらわにしたアドルフは玉座から勢いよく立ち上がると、腰に装着している刀帯のサーベルの柄に手を掛けた。
「陛下!」
そばに控えていたヨハンと侍従武官長が、慌ててアドルフの身体を押さえる。
衛兵と将校らがマシューズの身を拘束し、「陛下への侮辱は許さんぞ!」とがなり立てた。
殺意を剥き出しにしたアドルフの姿に、不穏に満ちた部屋の空気に、シーラはただ青ざめる。