軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
何故こんなに険悪な状況になっているのだろうか。アドルフとマシューズの会話を聞いていても、シーラにはさっぱり分からなかった。
けれど、どうやら自分が原因に関わっているらしい。そう思うとこの状況を作り出しているのが自分のようで、シーラは急に悲しくなってしまった。
今にも泣き出しそうな顔でシーラが玉座に座っていると、衛兵に両腕を拘束されているマシューズが笑顔で呼びかけてきた。
「シーラ様。フェイリン国民はあなた様がお帰りになるのを、心よりお待ちいたしております。もうしばらくお待ちください。必ず、必ずあなた様を正当なるフェイリン国王として、お迎えにあがります」
「国……王……?」
シーラは耳を疑う。今、彼は、シーラを国王として迎えにくると言っただろうか。
「シーラに話しかけるな! これ以上この国を貶めるのなら、今すぐ停戦を破棄すると思え!」
アドルフの怒声を合図に、マシューズともうひとりの男が衛兵に腕を掴まれたまま部屋から追い出されようとする。
扉の前まで来たマシューズは衛兵の腕を強引に振り払うと、シーラに向かって恭しい礼をしてから、自らの足で謁見の間を出ていった。
扉の閉まる音がして、部屋は沈黙に包まれる。けれど不穏な空気はまったく消えず、室内は呼吸をするのも憚られるほどピンとした緊張が張り詰めていた。
どうしていいのか分からずシーラがハラハラとしていると、押さえていた側近の腕を振り払ったアドルフがドスンと玉座に座り直し、大きく息を吐き出した。そして両手で額を押さえ項垂れると「ひとりにしてくれ」と命じる。
その声には怒りとやるせなさが滲んでいるような気がして、シーラの胸をぎゅっと苦しくさせた。