軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
「陛下がお見舞いに来てくださいました。入ってもよいかとお伺いされておりますが……いかがなされますか?」
ノックの対応をした侍女がそう尋ねたのを聞いて、シーラは潜りかけていたベッドから身体を飛び起こさせた。
そして「ちょ、ちょっとだけ待ってください!」と叫ぶと、ボサボサになっていた髪を急いで手櫛で整える。
ネグリジェの上にガウンを羽織り身を正してから「どうぞ」と答えると、珍しく側近も侍従もつれていないアドルフが、ひとりだけで部屋に入ってきた。
「ずいぶん回復したと聞いたが、調子はどうだ」
三日ぶりにアドルフに会い、声をかけられただけだというのに、シーラは緊張して心臓が痛いほどドキドキしてしまう。
野犬から守ってくれた勇ましい姿を、泥まみれのシーラの泣き顔を撫でてくれた優しい姿を、床に臥せっている間、何度も夢に見たせいだろうか。彼の姿をまっすぐ見ることもできないくらい、照れてしまって恥ずかしい。
今日もアドルフは凛々しい軍服姿だ。軍議の後なのだろうか、帝国軍将官の後ろ丈の長い上衣を着ている。けれど、左腕を布で首から吊るしているのを見て、シーラはサァッと顔を青ざめさせた。
「ア、アドルフ様……! お怪我はよくなったんじゃ……」
ベッド脇の椅子に座ったアドルフに、シーラは思わず詰め寄った。
彼は少し驚いた顔をしたが、シーラを安心させるようにふっと軽い笑みを零す。
「気にするな、少し大げさに巻かれただけだ。感染症もない。すぐに治る」
「でも……」
考えてみれば野犬に噛まれたのだ、二、三日で治るはずがない。それにあのときの出血量からして、肉を裂かれた可能性もある。決して軽症のはずがなかった。
感染症がないならいずれ治るとはいえ、彼に軽くはない怪我を負わせてしまった罪悪感が募る。
不安に眉を顰め、すっかり元気を失くしてしまったシーラに、アドルフは右手でポンと頭を撫でてきた。