軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
「俺の言ったことを忘れたのか? この傷はお前を守った俺の勲章だ。胸を張れ。お前はワールベークの軍神に守られた、特別な存在ということなのだからな」
「特別……ですか?」
「ああ、そうだ。俺の妻という世界にひとつだけの座に就く、特別な女だ」
アドルフとつがいになることは分かっていることなのに、そんな風に言われてしまうと、嬉しくて恥ずかしくなってしまうのはなぜだろう。
「じゃあ……胸を張ります」
頬を赤らめながらも従順にシーラが言えば、アドルフは「いい子だ」と頭を何度も撫でてくれた。それがやけにくすぐったくて、すごく嬉しい。
(どうしたんだろう、私、変だわ。アドルフ様がそばにいることが嬉しくてたまらない。それなのに気持ちがソワソワしてドキドキして、顔を見るのが恥ずかしい……)
シーラはこんな気持ちを抱くのは初めてだった。けれど、それがなんなのか心当たりがある。
これはきっと“恋”なのではないかと思う。
教会にいた頃読んだ小説には、淡い恋の話もいくつかあった。とても好きなのに胸がドキドキして緊張してしまって、上手く喋れなかったり顔が見られなかったり――まさに今のシーラと同じ状態が描写されていたのを思い出す。
(私、アドルフ様に恋をしたの……?)
意識してしまうとますます鼓動が早まって、シーラは思わず顔を俯かせた。
するとアドルフは、今度は右手でシーラの頬を包み、そっと顔を上向かす。
「顔が赤いな。まだ熱があるのか」
琥珀色の瞳に間近で顔を覗き込まれ、シーラは頭が沸騰しそうになった。
恥ずかしくて顔を背けたいけれど、大きな手に頬を包まれるのはとろけるほどに心地いいし、美しい琥珀の瞳をもっともっと見つめていたい。
(……アドルフ様のお顔、綺麗……。瞳は美しいし、睫毛は長いし、眉も鼻もとっても男らしくて凛々しい……)
どうしてこんなに魅力的な男性に対して、今まで普通に接していられたのだろうと不思議にさえ思う。
胸を甘くときめかせながら、シーラは酔いしれるようにうっとりとアドルフを見つめた。いっそこのまま時間が止まってしまえばいいのにと願いながら。