軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
大きな手に委ねるように頬を包まれているシーラを、琥珀の瞳はじっと見つめ、刹那違う表情を浮かべた。そして次の瞬間。
(――え?)
ふっと瞼を伏せたアドルフの顔が近づき、唇に何かが触れた。
少しだけひんやりとして柔らかい感触が唇に触れ、重なり、食むように動いて、離れる。
シーラは目を真ん丸に開いたまま動けなかった。いったい何が起きたのだろうか。
もとの距離に戻ったアドルフは長い睫毛が綴っている瞼をゆっくりと開き、なんともいえない熱っぽい表情を浮かべた。
「……アドルフ、様……?」
目をしばたかせながら呼びかけると、彼は頬を包んでいた手を離し、親指の先でシーラの唇を軽くなぞる。
そして突然椅子から立ち上がると、再び頭をポンポンと撫でてきた。
「まだ熱があるみたいだな。大事にしておけ」
それだけ言うと、アドルフはまるで急いでいるようにクルリと背を向け、足早に部屋から出ていってしまう。
「ア、アドルフ様……?」
ポカンとしている間に、部屋の扉が占められてしまった。ひとりになった部屋のベッドの上で、シーラは自分の唇を指でソロソロとなぞってみる。
(もしかして今のって…………キス?)
そのことに気づいた途端、頭は沸騰したように熱くなり、何も考えられなくなって、フラフラと身体をベッドに倒れこませたのだった。